東京地方裁判所 昭和57年(ワ)5371号 判決
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【判旨】
一先ず、請求原因1の事実についてみるに、<証拠>を総合すると、原告は、昭和五五年六月二〇日、訴外中村道子に対し、金九〇〇万円を弁済期昭和五六年六月一九日、期限後の遅延損害金を年二割五分二厘の割合とする旨を定めて貸し渡したことが認められる。
二そこで、被告が右一の債務について連帯保証をしたかについて判断する。
<証拠>を総合すると、原告は、訴外中村道子(以下「道子」という。)とかねてからの知り合いであつたが、昭和五五年六月頃、金九〇〇万円を道子に貸し渡したこと、右貸し渡しに先立つて、原告は、道子に物的及び人的担保を要求したこと、右貸付に当たつて、道子は、金銭消費者貸借契約書と題する書面を原告のもとに持参したこと、同書面には、原告を貸主、道子を借主として、金九〇〇万円が貸し渡された旨のほか、利息、弁済期及び遅延損害金の定めが記載されていたこと、同書面には、そのほかに賃借権の設定に関するとりきめが記載されていたが、原告は、道子に対し、原告が要求しているのは、抵当権の設定であつて、賃借権の取得は不要である旨を述べて、右記載は、抹消されたこと、同書面には、借主として道子の住所、氏名が記載され、その名下に印が押捺されていたほか、右道子の氏名に並んで、同書面に記載された契約とのかかわりを示す何らの表示もなく、被告の住所、氏名が記載され、その名下に印が押捺されていたこと、被告が同書面に氏名を記載し、押印したのは、道子が被告に対し、原告から金員を借用するについてその証人となつて欲しい旨を告げられてこれに応じたものであること、被告は、原告の娘が被告からダンスを習つていたことから原告を知つていたが、それ程親しい関係でなく、また、道子は、被告のダンスの教師であつた訴外亡中村順治の娘であることから道子を知つていたこと、被告は、右訴外亡中村順治が所有していたダンスのけい古場をその没後も引き続いて使用してダンスを教えていたが、道子の親戚の指示により、弁護士から、右けい古場については、被告に何らの権限もないことを告げられ、その使用について低額の賃料を支払つていたこと、被告は、ダンス教師をし、けい古場も旧師の使用していたものを引き継いでいることから、今までに、金員の貸借を必要としたことはなく、また、実際にその経験はなかつたこと、原告は、前記金銭消費貸借契約書と題する書面を道子から受け取つた後、知り合いから、被告の氏名の上に連帯保証人と記載しておかないとまずいと言われて、その旨の記載をしてもらつたことが認められる。右認定に反する原告本人尋問の結果は、他の証拠と対比して信用することができない。
右認定の事実によれば、道子が原告から金九〇〇万円を借り受けた旨を証する書面に被告が氏名を記載し押印した際には、同書面には、連帯保証に関する記載もなければ、被告が道子の原告に対する債務についての連帯保証人であることをうかがわせる何らの記載もなかつたことが明らかであつて、同書面における被告の氏名の記載、押印をもつて、被告が右債務につき連帯保証をしたと認めることはできない。もつとも、金銭の貸借を証する書面に氏名を記載し、押印する行為は、その貸借について何らかの責任を負う意思を表示したと解される場合もあり得ることはいうまでもないが、被告は、道子のために連帯保証をしなければならない程、道子から利益を受けてもおらず、一方原告とも、連帯保証をしなければならないほどの親しい関係にはないうえ、金員の貸借の経験もないことからみて、道子の原告に対する債務について、全く責任を負うという意思がなく氏名を記載し、押印したという事情も首肯できるものといわなければならない。
してみれば、他に特段の立証のない本件においては、被告が道子の原告に対する債務につき連帯保証をしたとの事実は認めることができない。
(元木伸)